2007年10月13日土曜日

1-one-

大阪戦まであと5日、練習は残すところ2回となった。

事実上、あと5日で15年の競泳人生にピリオドを打つことになる。正直、もっともっとこの大好きなチームで泳いでいたい。こんなに楽しかったのに、大学でこれだけ打ち込んできた水泳を引退して、その後にどんな生活が待っているんだろう、ぽっかり穴があいてしまうのではないか、なんて俺でも不安を感じたりしてるわけだ。

でもまぁ、よく考えてみると、終わりの瞬間って悲しみや寂しさを生むものであると同時に、最高の瞬間でもあるんだってことを忘れてた。だって、その瞬間を最高のものにするために、今までチームメイトの皆と時間を共にしてきてるわけやからな。努力の結果を出し切り、それが形として現れてくれるってのは、この上ないよろこびだ。そして、勝利というものがそれをさらに鮮やかに彩ってくれるんだ。心躍らせながら、その時を迎えることにしよう。

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まあ、おれの話はそれぐらいにしといて。

昨日の練習後に、鯉淵の家に行った。
突然押しかけた若松と濱田と俺に、いつものように過剰に気を遣いながら、変てこな料理を振舞う。そんなあいつを横目に、ふと本棚をあさってみると、、、

正式な名称は忘れたが、「自分の考えを上手く伝えるコツ」とか「人を説得するには」とか「暗示で納得させる」とか、話し方や伝え方に関するマニュアル本的な書物がどっさり出てきたのだ。


その場では笑っていたけれど、俺は胸を打たれていた。


かつてこいつが就任した当時、歴代の主将の中でこれほど「向いてない」と思われた男が、いただろうか。これほど不器用で、上、下、外から叩かれた主将がいただろうか。こいつがキャプテンになり、一度は本気で廃部の危機にまで瀕した水泳部。


だが今はどうだろう?言うまでもないね。

こいつは打ちのめされて這いつくばって、それでも前に進む事をやめてなかったのだよ。自分なりに足りないところを分析し、それを克服しようと人知れずもがいていたのだよ。

まあ、俺からも見ても、まだ克服できたとはいえない。しかし、その進歩は一目瞭然だ。練習後のミーティングの時なんかにも皆がうなずきながらこいつの話を聞く光景を最近よく目にする。

こうして、「変化」を示し、それを周りに波及させる、リーダーとして、チームの一員として本当に大切なものをこいつは教えてくれていたんだ。

もちろん、運が味方したのもある。2年目でこれほど真摯に部活と向き合った現2年生もいなかっただろうし、これだけタフなやつらが大勢入部してきた年もなかっただろう。

とにかく、こいつがそういった運を引き寄せたのも含め、俺達はこんなに素晴らしい水泳部を作り上げた。


我らは一つ!!
本番では相手の泳ぎに興味を持つ必要もなければ人と比べる必要も無い。自分の一番の泳ぎを!!
そしてナンバー1に!!
合言葉は、「1」。

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最後に、おれも流れに乗って締めくくりたいと思います。
アテネオリンピック女子マラソンで、高橋尚子選手が、金メダルに輝いた直後に放った、俺の人生を変えたこの一言。

「明日からまた走りたい」

この翌年、彼女は世界記録を出した。
勝ち負けも大事だけど、何より、
俺達もそう言えるようなレースにしようじゃないか。
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